2013年9月17日火曜日

9/16 夕暮れ時を逃すな!

台風にみまわれた日本の様子をネットで確認した。
想像を超えるような様子に胸が痛む。
食堂に降りて行くと、今朝はアメリカ人と日本人は半減し、その代わりドイツ人が増えている。疲れもあり、ゆっくり食事をとって出発。

パラッツォーロ通りからサンタ・マリア・ノヴェッラ教会に向かう。
ファサードが美しいS.M.N.

教会手前の広場の歩道から写真を撮っていると、時折車が乗り上げて来る。
挙げ句は救急車がけたたましい音を響かせて同じく乗り上げ、私達の直ぐ横を通り抜ける。危ないったらありゃしない!

しかしこの協会には騒がしい観光客は来ない。個人客がポロポロ入って行く。
私も初めての訪問である。
教会の中は想像を超えた荘厳さで満ちていた。
壁という壁、天井にもフレスコ画が描かれており、思わずキリスト教の世界に圧倒されてしまう。

特にここの圧巻はマザッチョ『三位一体』、ジョット『十字架像』、フィリッピーノ・リッピ『聖ヨハネとピリポ伝』、そしてブルネッレスキ『十字架像』である。
マザッチョ「三位一体」
見よ、この立体感

ジョット『十字架像』
ブルネッレスキ「十字架像」

これだけのものが揃ってしまうと、芸術を鑑賞するのは決して美術館ではなく、教会であるべきだと思う。 なにしろ、本来その作品が存在した場所であり、その場所のために作家が制作した作品であるからだ。
その意味ではウフィッツィにある宗教的作品は、本来の教会で鑑賞した方が圧倒的に感動すると思うのだが…

同じ十字架像にしても、ジョットとブルネッレスキとでは全く異なったものである。
もちろん時代が違うのだから当たり前なのだが、逆に言えば百数十年でこれほど変わってしまうことに驚いてしまう。

しかし、変わったのは技術ではなく、宗教観であり、人間愛なのではないだろうか?
それまで私は中世の芸術に対し、立体感も躍動感もないつまらない芸術だと思っていたふしがある。
しかしそれは、本来キリスト教が偶像崇拝を禁じており、イエスを描く際にも人間的にリアルな表現を避けることで、イエスを神たらしめたかった。そんな観念が強かったからではないだろうか?
それが、ジョットあたりから、マリアもイエスも血を流す人間であり、それを描くことの欲求がルネッサンスを起こしたのではないだろうか。

それにしても中世の扉を破ったと言われるジョットにおいてすら、その後同じ教会にこれほど違う作品が置かれようとは予想だにしなかっただろう。
この表情には魅せられました。
フォーカスが甘くて残念!



これらの全てのフレスコ画は、ラテン語の分からない一般市民に聖書の内容を知らしめるために描かれたものであり、それぞれが聖書の重要な場面を現している。

ここでは昨日のバルジェッロ国立博物館で妻が知り合ったアメリカ人夫妻と再会した。
奥様は多少足が不自由なので、車椅子に乗ったり降りたりという状態だったが、穏やかそうなご夫婦だ。年老いた母親を持った妻が、このご婦人が使っていた車椅子に興味を持ったのがきっかけだったようだ。
目が合い、何となく会釈をする。そのうち、中庭でも一緒になったので私が「お二人の写真を撮りましょうか?」ともちかけると「Great!」と嬉しそうな反応だ。私達もツーショットを撮って貰い、「また何処かで会いましょう」と笑いながら別れたのだった。
S.M.N.修道院の中庭で
修道院にも素晴らしい壁画が描かれている。
首が疲れるのが難点だが、思わず見とれてしまう。


実は私達夫婦は、イタリア旅行をする際のかなり多くの時間を、信者ではないのにカトリック教会で過ごしている。
23年前、最初にローマのサンピエトロ大聖堂で受けた衝撃以来、私はそこから逃れられない。
あの、言葉にできない感動に包まれていたいからだ。
だから、いつも気に入った教会に入ってしまうとなかなか出てこられなくなる。
今日のサンタ・マリア・ノヴェッラ教会も、そういう場所だった。

そうは言っても、多少はスケジュールを熟すことも考えなくてはならない。
感動を引き摺りながら、次の目的地であるサンタ・マリア・デル・フィオーレ教会(ドゥオーモ)に着く頃になってようやく、最古の薬局と言われるサンタ・マリア薬局でお土産用の石鹸を買い忘れていたことに気付いた。
正直に言えば、そんな物はとっくにどうでも良いことになっていた。
しかし、ドゥオーモは全くの期待外れだった。

ドゥオーモの前にある洗礼堂
やたらうるさい観光客の雑踏の中で行列を作って入ったのだが、先ほどのS.M.N(サンタ・マリア・ノヴェッラ教会)で感じた荘厳さも敬虔な気持ちも、微塵も感じられない。残念ながらただの観光地であり、どでかい箱に過ぎなかった。
ミラノ滞在時に毎日通っていたドゥオーモとは大違いだ。

外見は立派なのだが、中は殆どがらんどう。
強いて言えば、バザーリが描いたクーポラの天井画「最後の審判」くらいかな?

我々に限らず、殆どの観光客もそそくさと退出している。
美術品は付属美術館に収蔵されており、そちらで鑑賞できるようだが、「それは違う!」
教会自体を有料にして構わないから、きちんと美術品を本来の場所に置いておけ!
やはり、所詮は団体旅行でくる所だ。


ドゥオーモの向かいにある洗礼堂のギベルティ「天国の扉」はレプリカであるが、さすが立派だった。

早々にそこを切り上げ、一昨日見逃した「ベッキオ宮殿」に向かったのだが、又しても誘惑に駆られる教会に通りすがり出会ってしまった。
オルサンミケーレ教会である。全くの予定外。


何せ外壁にある数々の聖人彫刻が私を誘うのである。
もうそうなってくると、どれが誰の作品か?など、どうでも良くなってくる。

全ては心に響くかどうか、だけだ。
やっぱり入り口を探して図々しく入って行く。
内部は予想通りの荘厳さで我々を迎えてくれる。
しばらく椅子に座っていると、気持も身体も癒される。
そろそろ出ようと立ち上がったら、いく人かの人が階段を登って行くのが見えた。
一緒に行かない手は無い。

ビル4〜5階分の階段をのぼると、いきなり視界が開けた。
そこは、近くのドゥオーモやベッキオ宮殿が間近に臨めるパノラマビューが開けていた。
ジョットの鐘楼や、クーポラに登ってみるほどの派手さは無いだろうが、それでも大きな拾い物をしてしまった。



シニョーリア広場は相変わらずの人出だ。それにうんざりしたせいもあってか、ベッキオ宮殿は明日にしよう、ということにし、妻が昨日見かけて非常に興味を持っていたクレープ屋さんを目指すことにした。
コルソ通りの延長にあるアルビーツィ通りにそのお店はある。

途中では、昨日は雨で見つけられなかったダンテの家も見つけることができた。
ダンテはフィレンツェの、いやイタリアの知性の誇りだ。



何故、ダンテは偉いのか?神曲は凄いのか?
それは、当時公用語はまだラテン語であり、イタリア語は下品で粗野な言語と考えられていた時代に、初めてイタリア語で執筆された文学作品だからである…などという私の説明をまともに聞いていたかどうかは分からないが、妻はそそくさとクレープ屋さんを目指す。
でも、いったいラテン語はいつから人々の言葉ではなくなってしまったのだろう?それは何故?
何故、イタリア人はイタリア語をつくらなくてはならなかったのか?
またテーマができた。
いつか調べよう。

街で見かけたスィーツ屋さん。もちろんジェラートもある。

クレープ屋さんがあった!
10人も入れば満杯になるような小さな店だが、この界隈ではじつに珍しく明るくインテリアも明るい色調だ。ただし、客は若者ばかり。
勇気を出して店内に入った。
メニューはイタリア語のみなので、貧弱な英語で確認するしかない。
私はガレットと野菜が欲しかったのだが、相手はどうも私をベジタリアンと勘違いしたようだ。
「Not Vegetarian !」の一言に相手も安心したようで、漸くメニュー選び再開。

結局、オーソドックスなチーズとハムのガレットには、生野菜も添えられてあり、我々は狂喜乱舞した。カプチーノも頼み妻はご満悦。





写真もいっぱい撮らせて貰い、軽いが楽しい夕食だった。
清算レジには懐かしいOLIVETTIのロゴが・・・イタリア国内では、細々と活動しているようだ。

気持ちも軽くなって、そぞろ歩きをしながらホテルへ帰る。
店を出た近くでは真面目そうな若者が三人でアカペラ・コーラスを唱っていた。

下手ではないが、いくら前に口の空いたバッグを置いていてもお金をその中にいれて行く人はいないだろうという程度の出来だ。「おじさんの学生の頃と同じ程度だぞ」と思ってしまう。

途中のリプブリカ広場ではベテラン爺さん達が、ウッドベース、ギター、ヴァイオリンという組み合わせでJazzを奏でていた。この人達、昨日はサンタクローチェ広場で見かけたぞ。
こちらは、かなり上手い。年季が違う。
やはり客も分かっている。
お金を置いていく人が少なくないのは音を聴けば分かる。

ストロッツィ宮まで来たら、左の方に古そうな建物が見えた。ちょっと寄り道して行こう。
それは、フェラガモの本店らしい。
実に昔の宮殿をフェラガモが(少なくとも地上階のみは)占めているのだ。
フェラガモ


70万円のコートの前で
さすがに良さげな皮革だ
70万円程度の革のコートは、ただ観賞するだけで通り過ぎると、その先はアルノ川だった。
時分は黄昏。左にはポンテ・ベッキオ。まさに絶妙な場所で、絶妙な時刻。アルノ川も昨日の雨で綺麗になっている。
青い空に、少し赤みも混じった雲が浮かぶ。黄色いポンテ・ベッキオの下をアルノ川が静かに流れる。対岸には色とりどりの建物が様々な表情をみせている。
美しい!
きっとこの一瞬だけの美しさなのだ。フィレンツェを訪れる人には言っておきたい。

夕暮れ時にはアルノ川に行け!チャンスは多くはないぞ!

さあ、今日は早めにホテルに帰ってきたので、少しホテルでゆっくりしよう。
典型的な四つ星ホテル(Hotel Executive)のロビーです。


スタッフは皆親切でした




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