2013年10月6日日曜日

友からの便り

彼の名は「山田さん」。
しかし、彼の苗字が山田という訳ではない。

大学時代のサークル仲間のなかには、本名を連想させないニックネームを持つ友人が三人居た。
私が「ヒロ」と呼ばれることなど、即刻本名が連想できる、実にとるに足らないニックネームだ。

一人は、哲学専攻だったから「哲人」。これは比較的分かり易い。

二人目は、少しややこしい。
入部からほどない頃、サークル主催のコンサートの準備をしていた。
私達新入生が広報用の立て看板を作っている時、台に登って上の方を担当していた一人がいきなり叫んだ。
「ちょって、ガバリ取ってくれ!」
そこに居た全員の手が止まり、一瞬の沈黙が走った。
しかし、本人はその沈黙を全く感じていない。
「ガバリだってば、ガバリ!」
それ以来、彼はガバリと呼ばれた。

ガバリとは画鋲のことらしい。
「画張り」なのか「画針」なのかは今も不明だか、今も彼はガバリと呼ばれ続け、今も一緒にバンド活動をしている。

そして三人目が真打ち「山田さん」なのだ。
もちろん、立派な苗字は持っているのだが、或る先輩が彼を「山田さん」と命名したのだ。
「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する「山田さん」に似ているというのだ。もちろん妖怪ではなく人間だ。
確かにあの飄々とした雰囲気は似ていなくもない。
とにかく、それ以来、彼は先輩からも「さん付け」で呼ばれることになったのだ。

彼はバンドではドラムを担当していたが、我々が音楽活動に見切りを付けた後も、一緒に登山をしたり、卒業後も一緒にスキーに行ったりもした。
特にスキーの腕前は我々ビギナーとは全く次元の違うレベルであり、脱サラ後、或るスキー場ではあの大女優「吉永小百合」さんのエスコート役を務めたという逸話まで残っている。

その後も彼は自分の進むべき道を模索し、結局一人渡米した後はレストランで働き、現地で家庭を持った。
今はデンバーでアメリカ人として生きている。

水木しげるさんが「ゲゲゲの鬼太郎」の中で『典型的な日本人』として描かれた「山田さん」だったが、私達の「山田さん」はそれとは全く違う生き方を選んだのだ。

メールアドレスも住所も知ってはいたが、余りに生活圏が異なり会う機会も期待できない中、いつしかお互いに音信不通になってしまっていた。

それが、先日突然懐かしくなった私はGoogle+で彼の名前を検索(もちろん本名で)したのだ。
出てきた!出てきた!
しかも、そこには私が知っているデンバーにある彼の住所が記載されていた。
そうなると、余計に懐かしさはこみあげて来るものらしい。
メールを出して、待つこと二日。

彼が決してデジタル型人間ではないことを知っていた私は、返信にもう少し日数がかかることを覚悟していたので、昨日の未明にそれが届いていたことには大いに驚嘆した。

彼も、彼の家族も元気にやっているらしい。
何はともあれ、一安心だ。

この年齢になると、何でもないそんな便りがとても嬉しい。

再会を信じながら、今は”今度はどんな返信を書こうかな?”と考えている。


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