東京の友人宅付近で開催される花火をマンションのベランダからみるという集いが毎年開催されるのだが、私は3年ぶりの参加である。
花火は8月3日夕方。
それまでの空き時間を利用して、私の趣味の一つである「落語」を聴きに行く事を思い立った。
事前に、都内の寄席4軒の出演者をネットでチェック。
池袋演芸場は昼席トリが柳家小三治だったので、これで決まりじゃん!
と思いきや、この日は小三治師匠、お休みだと言う。
連日ではお身体に響くのであろう。
なにせ、師匠ご高齢にして、最近は味わい深さも、更に深みを増してきたとは言え、見るにお労しい雰囲気。
地方在住の身の上としては、残り少ないチャンスを逃すまい(ごめんなさい)、と勢い込んだのだが・・・・・
新宿末広、上野鈴本も、もちろんチェックした。
どちらも遜色の無い演者の顔触れだが・・・・
ふと思い出した。
宿泊ホテルが「グランドアーク半蔵門」だ。
ということは「国立劇場=国立演芸場」が間近だと言う事である。
急ぎ国立演芸場のチェックをすると、トリは三遊亭円丈だ。
これに決めた。
名古屋出身という親近感と、破天荒な新作落語は以前から好きだった。
特に、円楽の死後、7代目円生という大名跡を誰が継ぐか?という騒動の折には、この人も嘘か本気か、名乗りを上げている。
私は新作しか聴いたことが無いが、古典もすると言う。
さて、初めての「国立演芸場」はホテルのすぐ近く。
最高裁判所の隣である。
それにしても、そのエントランスは侘しすぎる。
地下鉄「半蔵門」「永田町」どちらから歩いても、広くは無い道の横を高架の道路に覆い隠されたその先が入り口である。
まぁ「演芸場」だから、しかた無いか?と思ってはみたものの、「国立劇場」にしても大差無いのだ。
これが、「国立施設」の入り口?
これは如何なものであろうか?
仮にも日本文化の一翼を担う歌舞伎・文楽・・・・・落語が、このような扱いとは何とも情けない。
もちろん、繁華街である必要は無い。
本当にその芸が好きな人だけが来れば良いのだから・・・
しかし、いくら裁判所の隣だからと言っても、別に頭を低くして入る必要などないのだ。
入ってみれば、国家公務員なのだろうか?と思う程明るい職員が出迎えてくれる。
始めは前座か二つ目の高座だから、ということで奥にある展示コーナーを見学。
そこでは「思い出の噺家たち」という展示会が開かれていた。
確かに、鬼界に行ってしまった懐かしい人達ばかり。
古い所では六代目円生、彦六(正蔵)、伸治(文治)、馬生・・・・
新しい所では、円楽、談子の写真が。
いずれ劣らぬ名人ばかりだ。
さて、席についてみると、「ふう丈」が終わる所。「丈」の字からして円丈の弟子なのだろう。
次に登場したのが「三遊亭亜郎」という噺家。
演目が「反対車」だというのは、すぐに分った。
このお題は、沢山の噺家が演じているが、体力勝負の落語だ。
私の記憶では、伸治と名乗っていた頃の若き桂文治が演じているのをテレビで見た事が印象深い。私も随分若かったと思うが・・・・
なかなかに亜郎という噺家、滑舌も見事であり、見る方にもスピード感と緊張が伝わってくる。
これで前座?という疑問は最後まで解けなかった。
どうみても、それほどには若くないのだ。
後で調べてみれば、彼は「劇団四季」出身という異例な経歴を持ち、年齢も私の10歳下。なんと誕生日が全く同じときている。
34歳で小朝に弟子入りし、そのご円丈一門に移籍し・・・・二つ目
なるほど、 年齢の割には芸歴は短いということか。
しかし、この芸ならば真打ち昇格も遠からずだろう。
その後は、「丈二」の新作、いろモノと続き、夢月亭清麿の新作「東急駅長会議」。
この人は早稲田大学出身というから、ちょっと驚く。
ネタも東京都内の駅の優劣を皮肉った内容で、実に面白い。
私は地方人だが、サラリーマン時代に東横線を頻繁に利用したので、その上下関係が面白かった。
惜しむらくはこの人の特徴なのか、声が小さい。
毒っけのある内容の割に優しい声なので、寝入っている客も居たようだ。
次が「柳家こゑん」。名前からしてやはり小さんの弟子だったらしい。
新作「銀河の恋の物語」。七夕をテーマにしたネタである。
調べによれば、この人、相当な天文マニアとか。
なる程、その人にしてこのネタ。
さわりの部分は聴いたこともあるので、テレビにでも出ていたか?
なかなか、この人の語り口調も、軽やかで聴き易い声だ。
中入りの後は、柳亭左龍の「お菊の皿」。
これは定番中の定番!
体型と同じく迫力のある声で、オーソドックスな古典を聴かせて貰った。
次は手品の「ダーク広和」
本音を言えば、全く期待していなかったのだが、そこは見事なまでに裏切られた。
笑顔と語り口調が素晴らしい!
台本があるのか、全てアドリブなのか・・・恐らく或る程度の筋書きはあり、あとは現場対応ということなのだろう。
いわゆる「芸人風」ではなく、ただの「素人中年オタク」っぽい雰囲気が逆に人を妙に惹きつける。
「古典手品オタク」と自身も語っていた。拾い物をした気分だった。
さて、トリの「円丈師匠」。
今日の演目はMOVIE落語「タイタニック」。
マクラの上手さは申し分ない。
彼らしい語り口が始まる。
本編に入ると、少し滑舌の悪さが少し気になり始めた。
まあ、年齢の事を考慮すれば仕方ないのかもしれない。
私だって、固有名詞が出て来ない事は日常的なのだから・・・・
が、しかし若い頃の彼を知っているだけに少し寂しさを感じるのは否めない。
しかし、ドラマティックな場面での語りは、若い頃に比べると感動的ですらある。
歳の効というヤツか?
一度彼の「分七元結」や「芝浜」なんぞ聴いてみたいものだ。
そして、「落ち」の二段重ねは大いに笑わせてくれた。
こうして有意義な3時間はあっと言う間に終わってしまった。
これで、2千円なのだから、安過ぎるほど。
あと4年経てばシルバー料金1300円というから、楽しみである。
その頃に、新幹線もシルバー料金ってヤツができてれりゃ、申し分ねぇんだがね?
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